ブログ◆のんきのすゝめ~其の一「お誕生日ばんざい」

育児フアン、むつみです。「らぼずキッチン」のおまけで、松田道雄(1908-1998;医師、育児評論家)の「お誕生日ばんざい」という一文についてふれました。
実はこの一文、2015年に当館の旧ブログで取り上げていました。一部修正のうえ再掲します。
なおかなり独断と偏見を含みます。どうぞ海容ください。

再掲部分は前置きが長いので「お誕生日ばんざい」だけを読みたい方は→一気に松田道雄の文章まで移動する

 

——————————–再掲ココカラ——————————–

私は育児に不安を感じたおぼえがありません。

それは、私が「できる親」だからではありません。むしろ逆です。私は「できない親」です。ただし「のんき」です。
のんきだから、私は自分の「できなさ」に悩むことがありません。
子どもはとんだ災難ですが、世の中はうまくできているもので、私の「できなさ」を見かねた周囲の皆様のお力添えで、荒波を乗り切ることが(いまのところ)できました。皆様ありがとうございます。いやホントに。

ただ、ひとつ釈明をしておきたい。
私が「のんき」なのはわざとです。いえ、普段はたしかに何も考えていません。ただし、子育てについてだけは、私なりの熟慮の末に「のんき」化していると申し上げているのです。

私には、困ったときには話を極端にする癖があります。
離乳食づくりに失敗したときは、「明治とか室町とか弥生時代に、離乳食なんてなかったしょ」と開き直りました。
実際、当時は今のような離乳食はたぶん「ない」と思います。でも、当時の子どもはちゃんと成長しました(その証拠に私たちは絶滅せずにいます)。

手づくりを諦めてインスタント離乳食を使うときも、次のように考えました。
技術は日進月歩で進化しています。そのうえこのネット社会では、世間の評価次第で大企業ですらカンタンに経営が傾いてしまいます。品質確保は企業の死活問題のはず。インスタント離乳食、信用していいでしょ。

子どもが食事を盛大に床にこぼして、「この子の将来のために毎回注意しているのに、ぜんぜん伝わらない」と怒りと虚しさがこみあげてくることもありました。
でもそのとき、「30歳になったこの子」を思い浮かべると、「マさすがに、こぼしてないわな」と苦笑いをしつつ、いずれ伝わるという確信をあらたにして、泰然と叱ることができました(叱るのは叱ります(笑))。

毎日つくる晩御飯の献立が同じものばかりになっても、落ち込むことはありません。弥生時代の人が今の私たちより、変化に富んだ食事をしたとは思えません。でも、当時の子どもは・・・以下略。

「弥生時代」とか「30歳」というのは、話が飛躍しすぎとお思いの方もいるかもしれません。
ただ、「ふつう」とか「平均」とか呼ぶ「過去の他人の事例やデータ」と「わが子の今」の比較も充分に飛躍してると思えるんですよね。

事例やデータを否定しているわけではありません。
それらは、路傍の一里塚のようなもので、初めてその道をゆくわれら子育ての旅人(笑)にとって、命を託すに足る道標であることに異論はありません。じじつ、何度頼りにしたことか。

つまり、同じような飛躍した話なら、親の気持ちがふわりと軽くなるほうを、そのつど如意自在に選んだほうがよいのではないか、というご提案を申し上げているのです。
今日はデータ優先、明日は自分の屁理屈優先というふうに。そのほうが日々笑顔でいられますもん。にっこり。

先人たちが異口同音に言ったことは、「ママが(パパも)笑っていれば、家庭内のことはたいていうまくいく」ということです

家庭内に限りませんね。

「それは駄目、これも駄目」と眉間にしわ寄せて、ため息と叱責まじりのダメ出しを重ねることで、「私」の選択すべき方法を消去法で指し示す人物に対してより、「私」の失敗を赦すばかりか、「次もどんどんやりなさい、失敗しても責任は自分がとるから」と、穏やかな笑みをうかべて、次の選択もふたたび「私」に委ねてくれるような広大無辺な人物に、人はついていくと思います。少なくとも私はついていきたい。

子どもだって同じです(たぶん)。

ここまで書いて、ふとある名文を思い出しました。松田道雄の言葉です。
以下に転載しておきます。

▼▼▼▼▼

「お誕生日ばんざい」

誕生日おめでとう。

1年間の育児で母親としておおくのことをまなばれたと思う。赤ちゃんも成長したけれども、両親も人間として成長されたことを信じる。

1年をふりかえって、母親の心にもっともふかくきざみこまれたことは、この子にはこの子の個性があるということにちがいない。その個性を世界中でいちばんよく知っているのは、自分をおいてほかにないという自信も生まれたと思う。その自信をいちばん大切にしてほしい。

人間は自分の生命を生きるのだ。いきいきと、楽しく生きるのだ。生命を組み立てる個々の特徴、たとえば小食、たとえばたんがたまりやすい、がどうあろうと、生命をいきいきと楽しく生かすことに支障がなければ、意に介することはない。小食をなおすために生きるな、たんをとるために生きるな。

小食であることが、赤ちゃんの日々の楽しさをどれだけ妨げているか。少しぐらいせきがでても、赤ちゃんは元気にあそんでいるではないか。無理にきらいなごはんをやろうとして、赤ちゃんのあそびたいという意志を押さえつけないほうがいい。せきどめの注射に通って、満員の待合室に赤ちゃんの活動力を閉じこめないがいい。

赤ちゃんの意志と活動力とは、もっと大きな、全生命のために、ついやされるべきだ。

赤ちゃんの楽しみは、常に全生命の活動のなかにある。赤ちゃんの意志は、もっと大きい目標に向かって、鼓舞されなければならぬ。

赤ちゃんとともに生きる母親が、その全生命をつねに新鮮に、つねに楽しく生きることが、赤ちゃんのまわりをつねに明るくする。近所の奥さんは遺伝子のちがう子を育てているのだ。長い間かけて自分流に成功しているのを初対面の医者に何がわかる。

「なんじはなんじの道をすすめ。人びとをしていうようにまかせよ」(ダンテ)

松田道雄『定本 育児の百科』(岩波書店、P431-432)より

▲▲▲▲▲

——————————–再掲ココマデ——————————–

どーすか。親として心が満たされるだけでなく、なんだか心が奮い立つ気さえしませんか。

ヒトは学習型の動物です。育てられたように育ちます。親しい大人の立ち居振る舞いが、その子の立ち居振る舞いとなりやすいと言われます。子は親の鏡、親は子の鏡。

「赤ちゃんとともに生きる母親が、その全生命をつねに新鮮に、つねに楽しく生きることが、赤ちゃんのまわりをつねに明るくする」。
親が笑顔で子どもと過ごすことが、子どもの人生を豊かにするというのです。
私が子育てで「のんき」を目指す(笑)のは、子どもの前でカリカリ苛々したくないからです。
子どもには私からカリカリ苛々する様を学んでほしくない。にこにこする大人に成長してほしいですもん。

新型コロナウイルス感染症で、まだまだとっても大変な時期です。煮詰まったときはぜひ「お誕生日ばんざい」を思い出してみるのもいいかもしれません。私は、思い出してよかったよ。

 

とても長く回りくどい文章となりました。いろいろ言いたいことはおありですよね。承知しております。
でも、生命をいきいきと楽しく生かすことに支障がなければ、意に介することはない。
小食をなおすために生きるな、たんをとるために生きるな。文章校正のために生きるな。
どうぞお許しくださると幸いです。にっこり。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最後に(もうちっとだけ続くんじゃ)。

『育児の百科』は著者存命中は10年ごとに内容を検め、見直されて出版されています。著者の没後に一度絶版となりました。特に医学的な内容はきちんと修正していかないと致命的なものになり得るからでしょう。
しかし、読者はとても惜しみました。とてもとても惜しみました。
「本作の価値は技術的なところ(だけ)にはない」からです。
ですから、死後に復刊されたのです。(医学的に誤りとなった箇所はカットされたそうです。)※

母が子へ、その子がまたわが子へ。

誰かがこの本について語るときには、この受け渡しの連鎖が常に言及されます。世代を超える価値があるということの証左だからです。
皆様にもぜひ、お読みいただきたい。松田道雄氏の厳しくも慈愛に満ち溢れた言葉の数々が、皆様の子育てをあたたかく照らし、支えてくれることでしょう。

『育児の百科』は元気のもりの「ライフスタイルライブラリー」にもありますよ(笑)

でもまだライフスタイルは休止中だすみません、かんだむつみ

 

※『育児の百科』履歴
「育児の百科」(1967 岩波書店)
「新版 育児の百科」(1980 岩波書店)
「最新版 育児の百科」(1987 岩波書店)
「定本 育児の百科」(1999 岩波書店)
「定本 育児の百科〈上〉〈中〉〈下〉(岩波文庫)(2007 岩波書店)

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